インドネシアが中国の高速鉄道を採用した本当の理由。

日本の高速鉄道の導入が不採用になって件で、日本国内ではインドネシアに対して印象が非常に悪くなってしまい、安倍首相がインドネシア大統領に「失望しました」と言ってしまったそうです。しかし、高速鉄道が採用されなかったことをよい機会に、日本は「インドネシア」という国の実情を理解するいい機会ではないかなと思います。

インドネシアの高速鉄道が日本に受注されなくてよかったと思う3つの理由

なぜ中国製の高速鉄道を採用しなくてはならなかったのか、それは日本とはかけ離れた、インドネシアの現実があるのです。

インドネシア国民の10人に4人が慢性的栄養失調という現実

「これからはインドネシアの時代だ!」

「インドネシアの成長勢いは凄い!」

「インドネシアはどんどん裕福になっている!」

ここ数年、日本でも頻繁に聞かれたインドネシアの現実です。現実と言ってもこれはあくまでも都心部や一部インドネシアのことです。

実はインドネシアは今でも貧しいままで、国際連合世界食料計画(WPF)の2013年の調査によると、37%のインドネシア人は慢性的な栄養失調に陥っているということが分かりました。

2007年の調査でも37%という結果が出ており、一見横ばいのように見えますが、2007年から2013年の間でインドネシアの人口は1700万人増えています。つまり、6年間で600万人の栄養失調者が増えたということです。しかも、インドネシアはまだまだ人口が右肩上がりで増えていて、2030年には2.8億人と今より3000万人も増えることになります。

さて、貴方が1億近くの国民が餓え、これからまだまだ人口が伸びるインドネシアの国民だったとして、62億ドル(約7440億円)もの税金をかけて、数時間の短縮の為にジャカルタ(1000万人)とバンドゥン(240万人)の街を結びたいと思いますか?

 インフラ格差から生じる食料保証問題

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上の地図はインドネシアの食品安全保証の優先順位を表したもので、濃い赤→赤→黄色→オレンジ→黄緑→緑の順に優先順位が高いことを示しています。バンドゥンは食品安全保障では一番優先順位が低い優先順位6にカテゴライズされています(食べ物の問題はない)。一方、パプア島や地方、孤島などの優先順位が高いことが分かります。

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上の地図はインドネシア国内の交通インフラ(道路、水上航路)の普及率を表した地図で、濃い赤ほどアクセスが悪く、濃い緑に近づけばアクセスが良いことを示しています。

今回、高速鉄道建設されるジャワ島は日本の本州のようなもので、比較的資金もありロジスティクスも整っていることから島全体が濃い緑です。上の2つの地図から、パプア島や内陸部や孤島など交通インフラがない場所ほど食品安全保障に問題があり、インドネシアの地方と都心部の格差が問題であることが分かります。

インドネシア政府としても、都心インフラを発達させることも大切ですが地方との格差をなくし、地方のインフラを整え食料問題に取り組むことが急務になっているのです。

ジャワ島優先政策で中央政府の求心力低下を懸念

インドネシア人にとって「出身」や「種族」は彼らのアイデンティティを構成する上で忘れてはいけないものです。インドネシアの人口の40%程の1億人超がジャワ人となっておりインドネシアのメインの人種と言っても過言ではありません。そのためジャワ島やジャカルタばかり優先して物事を進めると、ジャワ以外のスマトラやスラウェシのインドネシア人から反感を買ってしまい、国内で無用な争いを増やす原因になってしまう可能性があるのです。

特に津波の被害にもなったスマトラ島の北部先端アチェ洲は、2005年まで中央政府に対して独立運動が激しく行われていました。20015年には自由アチェ運動(GAM)で使用された旗を州旗にするなど、かつての独立運動が復活するのではないかと中央政府も警戒しています。

またアチェ洲は天然資源が豊富にあり天然ガスや木材の生産が有名で、多くの資金を政府に提供しているのです。そんな彼らのお金を使ってジャワ島(ジャワ人)だけがメリットになるよう投資をしてしまったら政府が求心力を失い、アチェ洲が独立運動をしてしまいかねません。もちろん他の島も独立などの強行政策はとらないと思いますが、中央政府への不信感は募るばかりでしょう。

政府としても、都市部を強化したい気持ちはあるものの、地方政府や「ジャワ人以外のインドネシア国民」のご機嫌を伺いながら政策を進めなければならない事情があるのです。

おわりに

今回、日本の高速鉄道受注しなかった背景の1つに、インドネシア国内事情が大きく影響していると思います。国民から集めたお金を優先順位の低いインフラに使ってしまっては、さすがのインドネシア人でも怒ります。

そんな折、無料で建設しますと申し出て来た中国案を採用しない訳がありません。本心ではインドネシア政府も決して中国案がベストな選択だとは思っていませんが、自国の事情を考えるとそれしか選択ができなかったのです。

日本政府もインドネシアの国内事情を調査し、インドネシアにもメリットがあった提案だったのか、それとも日本の技術力を売り込みたいだけだったのが。もっとも日本案が不採用になった今ではどちらでも良い話ですが。

 

*出典 : Food Security and Vulnerability Atlas Indonesia, 2015, United Nation World Food Programme

 


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